私にとっての火種

7年前の3月11日、金曜日。

14時46分は仕事中で、目眩と勘違いする気持ち悪い揺れを感じ

その後、口伝えで東北で震度7地震が起きたと聞きました。

 

その日の夜は趣味の仲間とご飯を食べたけどもちろん何か暗い雰囲気でした。

自宅に帰ってきて父親とテレビを見ていて

関東も東北も大変な事になってるなという感想。

 

次の日、鈴鹿サーキットへ向かう(予定だった)途中ワンセグ福島第一原発

水素爆発を見ました。

自分にできたのは近所のコンビニの端末を通して

日本赤十字社を通して被災地に1000円寄付することだけでした。

 

 

 

ということでナナシノ()さんの本公演「希薄」を観劇してきました。

自分の推しである吉岡茉祐さん目当てで行きましたが

たくさん考えさせられるところがあったので自分なりに感想を

 

「希薄」は東日本大震災をテーマにした劇です。

登場人物も岩手県大槌町出身だったり、関東で被災したり、

阪神大震災を経験した登場人物など様々でした。

 

自分は、3.11当時は実家の東海地方に住んでいました。

そういった意味では、帰宅難民になった関東の人の厳しさにも

被災者となった東北の人の感情にも寄り添えない立場です。

ただ、なにか役に立ちたい、なにか助けてあげたいといった

感情が生まれたことは確かで

7年前の4月に仕事を自己都合退職したので

ボランティアへ行くことも検討していました。

 

「希薄」では、植田恭平さん演じる主人公の巧の彼女、里奈が、

ボランティアに行ったという回想シーンがあります。

里奈もボランティアに出掛けてブログに書くにも

はばかるような酷い目に遭うといったシーンや

宮原奨伍さん演じる巧の兄、孝介もボランティアで来てもらうよりは

仕事で来てもらったほうが気が楽だと言った被災者側からの本音もありました。

もし完全に7年前の自分が東北に行ったところで足手まといになり

迷惑をかけていたことでしょう。

役に立ちたいと思ったことが、被災した方にとっては

むしろ逆に負担、迷惑だったり、ボランティアに言った自分の自己満足で

終わってしまったりする。

ただ、なにかしたいという感情だけでは無意味ということを痛感しました。

ましてや、ボランティアで自分の周りの世界、価値観が変わると

思うことなんておこがましいと7年前の自分に伝えたいと思いました。

 

 

「希薄」では、巧、孝介が、時折トラウマがフラッシュバックし

喚き叫ぶシーンがありました。

きっと、自分も家族を失えば同じ感情になるのかもしれませんし、

もしかすると耐えきれずに自ら命を断つといった可能性もあるかもしれません。

危機的な状況に追い込まれた時、人間はどのような感情になるのか

それが巧や孝介が喚き叫ぶシーンから理解できます。

 

巧の命の恩人として登場する、矢野竜一さんが演じる被災した自衛隊員草一の

後ろ姿はとても頼りがいがある逞しさを感じました。

草一も劇中、家族を失うという経験をしていますが、巧、孝介とは違い

表立ってトラウマになるといった場面はありませんでした。

また、吉岡茉祐さん演じる未来も家族を失っています。

各個人によって、身内の死という一生のうちで最も堪え難い出来事に

向き合うのか、各個人キャパシティの違いや

そして向き合い方が異なることがよく表されていると思いました。

勿論きっとそれに優劣はないでしょう。

実際自分はまだ経験していないので実際身内がいなくなった時に

どうなるのかというのはまだ想像できません。

 

 

今年だけでも、大阪北部地震西日本豪雨

台風21号上陸、北海道胆振東部地震など

多くの災害が発生しました。(おそらく今後も起こるかもしれません)

日本に住んでいる限りは自分がいつでも

巧、孝介、草一、未来のような立場になる可能性はあるということは

覚悟しておかなければならないのかもしれません。

 

 

先の大戦から73年、日本は幸運にも

戦禍に巻き込まれることはありませんでした。

ただ、東日本大震災をはじめとした多くの災害は、

戦争にも等しいトラウマ、そして差別や同じ国民であっても齟齬が

生じる過酷な状況を被災者の方々に与えているのかもしれません。

 

 

そういった意味では

これは、もう一つの「戦争」なのかもしれません。

 

 

吉岡さんについて

今回の未来の役は吉岡さんにしかできない適材適所、

ハマり役といったところでしょうか。

(というか「希薄」自体が少数精鋭の集まりといった印象を受けました)

 

今年に入ってGJ、タイムフライズなどを生で観劇しましたが

今回の「希薄」で更に表現の幅が広がったのではないかと思います。

 

 

最後にこの素晴らしい劇を作ってくれた日野祥太さんについて

日野さん自体、西日本豪雨の被災地、岡山県真備町

ボランティアで出かけており、

ameblo.jp

脚本からも生々しさ、そして、リアルを感じることができました。

台本を購入させていただき、セリフを見ましたがやはり

お若い感覚から生まれたセリフばかりで(自分よりも年下なんですよね)

素晴らしい可能性を感じました。

また、劇中にニュースが流れたり、動画が流れたり、

ただ、淡々とドキュメンタリーを伝えるだけで息苦しくなるのではなく、

時折ユーモア等を交えたり変わった演出を加えることで、また、一層

悲壮なシーン、そして被災者とその他の人との違いが際立った

興味深い演出だったと思います。

今回このような作品に出会うことができたことを感謝したいと思います。

 

恥ずかしながら、Wake Up, Girls!、そして吉岡茉祐さんを通して、

やっと東日本大震災後の仙台、石巻を訪れることができました。

また、今回の「希薄」のように震災に真正面から

向き合う素晴らしい作品にも出会うことができました。

 

これは、おそらく実家にいたままでは

一生知ることができなかったでしょう。

そういった意味では、自分が「ここ」にいることは

無意味ではなかったのかもしれません。